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体質がよい、と自他共に認めているSやHにも出る杭を打つ人間はいくらでもいるだろうし、組織の壁も間違いなく同じようにある。
ただ普通の会社と比べればずっとましというだけの話なのである。 Tという会社は、世の中からはまだあまりSやHのように元気のよい会社として評価はされていない。
しかし、ある意味ではきわめて日本的な会社であるにもかかわらず、たしかに他社がとても簡単にまねできないほどの体質を持っている。 もちろん官僚的な人間もいくらでもいるわけだし、大企業病的な問題も内部から見れば山ほどあるに違いない。
ただ、普通の会社にはない独特の体質を持っていることは確かなのである。 Tの七つの習慣をどうすれば普通の日本企業に風土として植えつけることができるだろうか。
もう一度思い出してみよう。 まず、「相手の話をよく聞く」習慣である。
現場・現物を大切にする、という姿勢が常に保たれ、口で唱えるだけでなく隅々まで徹底している。 次に、「何が問題かを考える」習慣を持っている。
「なぜを五回繰り返せ」ということが大事である。 T自動車と普通の会社の違いでいちばん大きなものを挙げると、「そういうことは業界常識ではできるはずがない」というような、ある意味ではとんでもないテーマが提起された場合、結果として多くの人が「よし、まずやってみよう」という行動を起こすことである。
「まずやってみる」と簡単そうに言うが、実はこれがなかなか難しい。 経営に対する基本的な信頼感がない会社では、こういう行動はまず起きない。
多くの人が目先、自分にとって損か得かですべてのことを判断している会社では「まずはやってみよう」とはだれも思わない。 多くの人が前向きの姿勢を共有する、というのは当たり前のようでいて実は大変なことなのだ。
では、どうすれば普通の会社であってもそういう前向きな姿勢を多くの社員が身につけられるのか、という話から考えてみよう。 の社内ではよく言われる。

「激励する」「提案する」という習慣を持っている。 「どうしたら勝てるかの知恵を出す」習慣を持っている。
また、いつもネットワークで仕事をするから、お互いに「相談する」という姿勢を持っている。 その他、現場・現物主義が徹底している、という意味で「事実に基づく」習慣がある。
そして最後には、「まずはやってみる」習慣である。 人の話をよく聞く。
常に「何のために」を考える。 提案する。
相談する。 励ます。
事実に基づく。 まずやってみる。
体質がよい、と言われる会社では多かれ少なかれこういった前向きな姿勢を大半の社員が共有している。 どんな組織でも全員まるきり同じ、というイメージは現実的ではない。

体質がよい、と言われている会社の人間のなかにも、一生懸命仕事はするがどこか保身という言葉がにおってくるような人も当然いる。 組織の体質をいいとか悪いとか言うときは、強いて言えば主流を占めているのはどちらかの意、くらいに考えるべきだろう。
TおよびTグループ出身者でT生産方式のコンサルティングをしている人は多い。 T生産方式を手法として導入し、形をつくり上げるところまでは、彼らのコンサルティングは多くの場合成功する。
しかしそれが根づかないことも多い。 なぜなら、受け入れる側が気持ちのうえで拒否をしたままだからである。
Tグループ出身のコンサルタントにとって「社員が前向きの姿勢をしっかり持っている」というのは、ある意味ではごく当たり前の前提である。 彼らにとって社員というのは「自分の頭で考えるはず」なのだ。
しかし現実には、コンサルティングをしている会社は普通の会社なのであって、そこの社員は必ずしも自分の頭で考えようとしない。 その前提条件が狂ったとき、それに対応する有効な手段は多くの場合、強制的な「やらせ」しかなかった。
言うまでもなく、Tの社内でも「やらせる」こと自体はよくあることだ。 しかし、前向きの社員、つまり経営に対して信頼感を持っている社員に対して「やらせる」のと、後ろ向きになっている社員に「やらせる」のとでは意味がまったく違う。
社員が自発的に取り組もうとしていないにもかかわらず、どうしても実行する必要があるとしたら、無理やりにやらせるしか方法がない。 しかし、後ろ向きの社員に無理にやらせると、表向きは従っても心のなかには拒否が起きる。

「やらされ感」を強く持ったまま事は進行する。 表面上の形だけが整うのである。
せっかく導入したものが定着しないのはそういうケースなのである。 Tのこの前向きの姿勢は、新入社員のときから常に先輩から後輩へと受け継がれてきたものである。
一人ひとりのTの社員(特に他社経験のない社員)が、自分たちが普通の会社の社員よりもはるかに前向きなのだ、と特に自覚しているわけでは必ずしもない。 これを習慣として身につけていくのは、新入社員の頃からまわりの先輩から影響を受けたり、数々の社内団体などのインフォーマルネットワークが果たした役割が大きい。
もちろんどんな会社でも、できれば全社員がこういう前向きの姿勢を共有することが必要なのだが、それは口で言うほど簡単なことではない。 こういう前向きの姿勢を本当に共有しようと思うなら、単に教え込むといったやり方ではうまくいかない。
まずその前提として経営に対する信頼感がなくてはならないし、社員同士の仲間としての連帯感もなくてはならない。 お互いになんでも率直に話し合えたり相談できる雰囲気や環境が必要なのだ。
この前向きの姿勢をチームや集団が持つことの意義をみんなが自然に体感できるプロセスと、それが促進される環境が必要になるのだ。 この前向きの姿勢がTにおいてどのようにして生まれてきたかは、いくつものルーツが考えられる。
例えばすでに述べた製造部門における初期の頃の自主研のなかで、毎月一回、終日異なったメンバーで「何が本当の問題か」といった議論をしているといったようなさまざまな地道な積み重ねがこのような前向きな姿勢をつくっていった、と私たちは考えている。 ここで忘れてならないのは、Tでの初期の自主研というのはあくまで自主性を大切にしていたということだろう。

ノルマを与えていつまでに何を、とはやっていなかったことに注目すべきなのだ。 形としては似たようなことを他社もやってきた。
自主研を例にとって考えると、何が形の上だけの活動になってしまう要因になったのかと言えば、後発でスタートした他社では「自主的」というのが建前で終わっていたことであろう。 ノルマを与えていたかどうかが、その分かれ目になっている。
Tの当時の自主研は、明日への準備をする場であった。 そういう意味では、今日の生産をテーマにしている場(会議)に比べると、自由な雰囲気は出やすかった。
しかも自分で日程を選んで出るのだから自由度も大きかった。 気の合う者が一緒に、というのもやりやすい。
しかもノルマはない、となると通常の会議に比べるとはるかに気楽さはある。 自由な議論の場という性格を当初の自主研は「気楽にまじめな話をする場」をつくるでは、普通の会社で全社員がこのような前向きの姿勢を共有するにはどうすればいいのだろうか。
しっかり保っていたことが、社員の前向きの姿勢を醸成するのに一役かっていたと考えられる。

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